二、松風誠の孤独
それから僕は有休取得したものの、何をどうやって解決したらいいのかわからないままだった。
いつも通りベンチプレスを100キロ持ち上げても気は晴れなかった。
筋トレを終えて自宅に戻っても、気持ちは変わらない。
夕飯後の暗い部屋の中で、僕はスマホを取り出した。
僕は孤独だということに気づいてしまった。
それも当たり前だ、何十年もずっと仕事一筋で生きてきた。
上司や同僚にはこんなこと相談できない。
現状を何かを変えたいと思って、人生初のチャット?を始めてみた。
ユーザー名はよくわからないので、本名を入力、写真は免許証の顔写真にした。
そうして僕は運命の赤い糸でキツく固結びされた人に出会う。
三、鈍平との運命の出会い
【松風】:松風誠と申します。本日は貴重なお時間をいただきありがとうございます。
これであっているのか?緊張してきたな。
【鈍平】:松風誠さんですね!よろしくお願いします。
【鈍平】:誠さんって素敵な名前ですね。誠さんって呼んでもいいですか?
【松風】:はい、お褒め頂きありがとうございます。誠で構いません。
【鈍平】:今日は色々お話しましょうね!誠さん!
【松風】:はい、よろしくお願いします。
いい人そうだな。チャットの写真がないから女性か?
【鈍平】:まず誠さんは普段どんなことをされていらっしゃるのですか?
【松風】:はい、私は現在、刑務官として20年以上勤めてきました。
【松風】:趣味は筋トレとプロテイン作りです。あとは特にありません。
思っているより話が続かないぞ。どうしたらいいんだ!
【鈍平】:誠さんは刑務官さんをやっているですね。
【鈍平】:私たちの安全を守ってくださってる素敵なお仕事じゃないですか。
【松風】:そんな滅相もないです。自分はまだまだ未熟者です……
駄目だ、初対面の人なのに心の筋肉痛のせいで、ネガティブになっていく……
【鈍平】:誠さんそんな悲しいこと言わないでください。
【鈍平】:誠さんは名前通りの誠実で、真面目な人なんだなって伝わってますよ!
【松風】:ありがとうございます。あなたはいい人ですね。
なんていい人なんだ……こんな僕に嫌な顔せずに向き合ってくれるなんて……
【鈍平】:実はさっきから気になっていたことがあって、聞いてもいいですか?
【松風】:申し訳ございません、何か失礼がありましたか?
この人は何を言ってくるんだ。怖い……あなたにまで拒絶されたら僕は……
【鈍平】:違いますよ!松風さん何か悩んでいることがあるのではないですか?
【松風】:はい、よくわかりましたね。実はそうなんです。
この人は何者なんだ。なぜ僕が悩んでいることを一瞬で見抜いた!?
下手な凶悪犯よりたちが悪いぞ!もうバレているなら全て打ち明けるか……
【松風】:重い話なうえに、上手くまとめられるかわかりません。それでも聞いてくださりますか?
【鈍平】:はい、全然問題ありませんよ。
【鈍平】:全部話してください!私は誠さんの力になりたいんです!
【松風】:ありがとうございます。それでは話していきますね。
なんていい人なんだ。出会ってまだ一時間も経っていないのに……
なぜここまで親身になってくれるんだ。この人には誠実に全て話そう。
【松風】:実は職場で悩み事があって……自分がやってきた仕事が正しかったのかわからなくなってしまったんです。僕はある死刑囚の担当を数ヶ月していました。
実はその男、担当してから一言も話さなかったんです。
それなのに死刑執行当日の朝にこう言われたんです。
「松風さん、お世話になりました、ありがとう」って、まさか最後にお礼を言われるとは思っていませんでした。
それから自分のことも仕事も全てわからなくなってしまった。
何が正しかったのか、僕は彼にしっかりと向き合っていたのか?
こんな心の筋肉痛で苦しむ人間は夢である刑務所長にすらなれない。
また同僚や上司にすら恥ずかしくて相談できない。
僕は友人が少ないうえに、今まで仕事一筋で生きてきました。
休んでいたら暗闇の中で、なんて孤独なんだって気づいてしまった。
もうこうやって誰かに相談せずにはいられなかった。
僕はこの仕事が向いていないと最近思い始めたんです。
筋肉だけが取り柄の愚かな男なんです。
自分だけは大丈夫だと思っていました。実際に今までは筋肉が全て解決してくれました。その筋肉すら今は信じることができない。
心の筋肉痛になって辛いんです。もう暗闇の中で自分がまるで誰にも必要とされていないみたいなんです。
申し訳ございません、こうやって初対面のあなたのことまで困らせてしまっている。
僕は全然良い人間なんかじゃないんです……
返信がこない、当たり前だ……初対面でこんな闇を長文でぶちまけたんだから……
僕はこの人にすら見捨てられた……永遠にひとりぼっちだ……
ピロン!
え!返信が来ただと!?あり得ない!拒絶されているかもしれない……
読まなくては!勇気を出すんだ松風誠!!!!!
お知らせ
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
試し読みの松風誠編は、三日ごとに連載を更新していきます。
松風の“心の筋肉痛”がどのように変化していくのか、
ぜひ見届けていただけたら嬉しいです。
もし面白いと感じていただけたら、拡散などしていただけると励みになります。
また、WordPressでは裏話や制作メモなども隔週で投稿していく予定です。
よろしければ、また遊びに来てくださいね。
本編はKindleにて、2月上旬発売予定です。


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