物語はアルテアの寝室から始まる。
ベッドには、爆睡を装う四十歳の果物屋マーサ。
その隣に千年生きた賢者アルテアがいる。
誰にも語ったことのない自身の過去を、彼女は祈るように静かにこぼし始める。
「全部マーサのせいなんだからね」
「千年生き続けて、もう恋はしないって決めてたのに……」
「マーサはいつもそう」
「人を無自覚にたらし込んで……」
「村の人たち皆があなたのことを好きじゃない」
「どこまで罪な女なの?」
「だったら覚悟してよ」
「これはそのお返しだから……」
アルテアはマーサの額に優しくキスした。
「ごめんね……」
「でもあなたを心から愛してるの……」
アルテアはマーサに抱きつく。
「誰にも話したことがなかった……」
「私の千年分の気持ち受け止めてね……」
壮絶な過去を語り始めるアルテア。
「私、千年前にエラの国で生まれたの」
「今と違って、当時の私はどんくさいポンコツで……」
「王室で働くパパとママ、アイリスっていう幼馴染だけは見捨てなかった」
「アイリスとは五十年以上の付き合いでね」
「学園に入学して恋人になったの」
「本当に嬉しかったわ」
「あの頃が一番幸せだった」
「でもポンコツの私は彼女の足手まといになるから……」
「別れを切り出したの……」
幸せは崩壊していった。
それからは喪失感の連鎖だった。
「アイリスは私と別れてから、他国に留学したわ」
「最年少で宮廷魔術師になったの」
「でも帝国との戦争に巻き込まれて死んだわ」
「彼女は街の人々を逃がすために戦ったの」
「生き残りの兵士から伝言を言われたわ」
「アルテア、愛してる。幸せになってねってね」
「私はショックでふさぎ込んだ」
「けど帝国はエラにも攻めてきたの」
「パパとママは国の重要人物で、帝国の暗殺者たちに殺されたわ」
「私もその場にいたけど、無視された」
「殺す価値もないって言われて、ワープ能力が覚醒したの」
「それからエラの国は帝国に滅ぼされて……」
「私は逃げ続けたの」
「ワープ能力は不安定で、謎の寺院にたどり着いたわ」
「寺院にはメイっていう五千歳の女エルフがいたの」
「冷たい人なのかと思ったけど、」
「メイも悲しみから逃げて寺院にたどり着いた」
「私は弱い自分を捨てたくて、メイに修行を頼んだ」
「メイはすぐ了承して、私は百年かけてワープ能力を、」
「コントロールできるようになった」
「それから四百年以上かけて、」
「全ての魔法と鉄杖による戦闘訓練を会得したわ」
「実はメイは死にかけてた」
「最後に残された力で未来予知してくれたのよ」
「五百年後に運命の人に出会い結ばれるってね」
「メイは力尽きた」
「埋葬した後、私は五百年旅をし続けたわ」
「出会った大切な人たちを守れず失い続けた」
「もうね。疲れちゃったのよ」
「ようやく千年が経って、」
「初めて遠距離ワープ能力を使ってみたの」
「もうどこでもいいから、行きたかった」
「そして湖で泣いているマーサに出会ったの」
「確信したわ。運命の人だってね」
「何より驚いたのは最初の会話よ」
「イチゴフルーツサンドを食べませんか?」
「そんなこと言われたら、笑うしかないじゃない」
「あなたは私の人生に生きる希望を与えてくれたのよ」
「うっ……アルテア……」
マーサは堪えきれず涙を流す。
「え!?マーサ起きてたの!?」
「どこから聞いてたの!」
アルテアはワープ能力を使って、マーサから距離をとった。
「実は最初から最後まで……」
「キスしたのも知ってます」
「最悪だわ!」
「村人たち全員の記憶を消去して、」
「寺院に四千年引きこもる!」
「アルテアやめて!」
「せっかく仲良くなれたのに……」
「あなたは永遠に孤独に暮らせるの?」
「過去を全て話したあたしの記憶も無くして?」
「そんなの耐えられないはずよ」
「だから考え直してお願い」
「アルテアが大切なの……」
「やっぱり無理よ!」
「マーサに嫌われたら耐えられない……」
アルテアは震えながら声を出している。
「今から記憶消去するわ!」
記憶消去魔法を発動させようとする。
「ダメよ!アルテア!」
マーサは走り、アルテアを抱きしめてキスした。
「ちょ……何するのよ」
アルテアは拒絶できない。
「いいから、今はあたしに好きなだけ甘えなさい」
「五百年もあなたを待たせたんだからね」
マーサは優しくアルテアの顔を撫でていく。
「わかった……もっとキスして!あと三十回以上!」
「ふふ、欲張りさんね」
「そうよ!私は五百年耐えてきたんだから!」
二人は泣きながら何度もキスを交わし、ようやく落ち着いた。
「わがままで、ごめんなさい」
「でもマーサのこと誰にも取られたくなくて……」
「嫉妬と焦りから暴走しちゃった……」
「マーサ愛してるの……」
「私もうマーサがいないと息もできないの……」
「お願い、どうかずっと側に居て……」
「また何千年と独りぼっちは嫌なの……」
「わかったわ、アルテア。一緒にいましょう」
その夜、二人はようやく互いの孤独を埋め合うように寄り添いあった。
最後に
最後まで読んでくださって、ありがとうございます。
人生で初めて書いた百合作品である残響のアルカディアを楽しんでくだされば、幸いです。
また、WordPressでは裏話や制作メモなども隔週で投稿していく予定です。
よろしければ、また遊びに来てくださいね。
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