暗闇での再会と復活
冴香から会いたいと電話を受けて、
大雨のなか駅からメーテリアス学園まで全力疾走してきた希。
どんくさい希は学園の温室に向かう階段で、
盛大にずっこけて頭を打ち気絶していた。
暗闇で亡き弟の幸太郎と再会する。
「あれ?あたし死んだの!?」
「氷室先輩に会いに行かないとダメなのに!」
希は暗闇で叫び続ける。
「そんなわけないだろ」
「姉さんしっかりしてくれよ」
そこには死んだはずの幸太郎が目の前に立っていた。
「幸太郎?幸太郎なの!」
そう言って希は幸太郎を抱きしめる。
「そうだよ」
「姉さん」
いつも通りの笑顔で優しい幸太郎だ。
「会いたかったわ……」
「もう二度と会えないと思ってたから……」
「幸太郎がいなくなって……」
「あたしずっと辛かった」
希は辛そうに話し続ける。
「幸太郎のおかげでメーテリアス学園に入学できた」
「でも最初は諦めようと思ってたの」
「馴染めるわけないし……」
「幸太郎も死んじゃった……」
「入学を決意するまでの一ヶ月間は地獄だったわ」
「お父さんは生きてたけど……」
「あたしは引きこもって……」
「お母さんにまた心配掛けた」
「幸太郎の葬式では耐えられなくて……」
「会場の外の茂みでうずくまってずっと泣いてたのよ」
「もう幸太郎には二度と会えない」
「あたしにはもう何もないし」
「立ち上がる力もなかったの……」
「メーテリアス学園に行こうと決意したのは……」
「お父さんのおかげなの」
「意識が戻ったお父さんは、」
「自分を責めていたけど……」
「あんな事故誰も予測できない」
「それで言われたの」
「あいつは受験が終わった希からの電話を、」
「自分の事のように喜んでいた」
「姉さんは絶対に受かってるよってな……」
「僕も早く受験して姉さんとメーテリアス学園に通いたいよ」
「そしたら姉さんを守れるのに……」
「姉さんに早く会いたいなが最後の言葉だった」
「希、何があっても諦めてはダメだ……」
「ここで全てを諦めたら、幸太郎の死が無駄になる……」
「幸太郎のためにメーテリアス学園に行くんだ……」
「そしてお父さんはまた寝てしまったわ……」
「あ、大丈夫よ!生きてるから!」
希は慌てて説明する。
「そうだったんだ……」
「姉さんはメーテリアス学園に、
無事に受かって通ってるんだね」
「僕の思ったとおりだったよ」
「姉さんはやれば出来る人だって!」
幸太郎は大喜びだ。
「それで例のお姉様とは仲良くなれたの?」
幸太郎は興味津々で聞く。
「氷室先輩ね!」
「あの看板の美人は氷室冴香って言うのよ!」
「受験日に迷子になってしまった私を救ってくれたの!」
希は笑顔でいう。
「本当にそれだけ?何か隠してない?」
幸太郎は疑いの目を向ける。
「実は試験当日、温室に迷い込んで……」
「そこで氷室先輩に会ったの」
「氷室先輩が泣いていたから……」
「受験なのも忘れて慰めたの」
「ハンカチで涙を拭いて、」
「キモい発言を連発したら唖然としてたわ」
「うああ……」
「姉さんまだそのくせ直ってなかったんだ」
「おまけに好きな人にも同じことしてるのか……」
幸太郎はわざとドン引きした顔をしている。
「それからは色々とあったわ」
「あたしがまた書けなくなって……」
「紙をくしゃくしゃにして、」
「三階から投げ捨てたら……」
「氷室先輩の頭に直撃して……」
「闇鍋小説を書いてるのが、」
「バレてしまったの……」
希は冷や汗を流しながら話す。
「それがきっかけで再会できたのよ!」
「幸太郎を失ってボロボロだったあたしは、」
「氷室先輩のおかげで立ち直れたの」
「生徒会のお仕事を手伝ったり……」
希は気まずそうに話す。
「え!?姉さんが生徒会!?」
「本当に立派になったんだね……」
「引きこもってた姉さんが……」
幸太郎は泣きそうだ。
「いやいや!」
「生徒会と言ってもただの手伝いだから」
「氷室先輩と一緒にいたいだけだったの」
「下心丸出しよ!」
希は必死に弁明する。
「ああ……うん……」
「そこまでストレートに言わなくてもいいよ……」
幸太郎は呆れてしまう。
「あとはどんなことがあったの?」
「そうね……」
「温室で2輪だけ咲いている赤い彼岸花を育てたり……」
希は思い出を振り返る。
「そうなんだ!」
「他にどんな花が咲いてたの?」
幸太郎は興味津々だ。
「紫のヒヤシンス」
「アリウム」
「マリーゴールド」
「あと白いカサブランカね!」
「氷室先輩は赤いバラを植えたいと話してたわ」
希は喜々として、咲いている花を説明していく。
「悲しい花たちのなかに、」
「姉さんみたいな白いカサブランカが植えてあるんだね」
幸太郎はなんとも言えない顔をする。
「あと印象に残っているのは文化祭……」
あの時の出来事を思い出す希。
「いいな!文化祭行きたかったよ!」
幸太郎は羨ましそうな顔をして言う。
「クラスではお化け屋敷」
「生徒会で男装喫茶店をやろうと話になってね」
「いざ始まったら、生徒会の男装喫茶店はすごい繁盛だったのよ!」
「氷室先輩とその友人の月代先輩の男装を、」
「目当てでお客様がきてたの」
「男も女も皆、関係なくメロメロになっていたわ」
「一日目は大忙しで……」
「まともに回れたのは夕方だったわ」
「氷室先輩と一緒に少しだけ回れたわ」
「クラスのお化け屋敷で、怖かったけど、」
「手を握りしめて一緒に入ってくれたの……」
希は正直に話す。
「待ってよ……姉さん」
「自分で作ったお化け屋敷なのに怖かったの?」
幸太郎は再び呆れる。
「そうよ!悪い?」
「あたしはお化け屋敷苦手なのよ!」
「おかげで氷室先輩とくっついて入れたわ!」
希は思い出してニヤニヤし始める。
「わかったよ……姉さん」
「続きを話してくれるかな?」
幸太郎はため息をつきながら言う。
「一日目の夜は生徒会室で夕食を食べたわ」
「男装の氷室先輩は綺麗でかっこよくて……」
「あたしはメロメロになったの……」
「わがまま言って膝枕してもらったり……」
「一緒にたこ焼きを食べさせあったり……」
「ソファーで寄り添いあって、」
「幸せな時間を過ごしたの」
「その日は家に帰っても、」
「興奮状態で寝れなかったわ」
「そして二日目よ」
「聞いてくれる?」
希は決意したように言う。
「もちろんだよ」
「姉さん!話して!」
幸太郎は笑顔に戻る。
「午前中と午後は相変わらず喫茶店で忙しかったわ」
「氷室先輩はナンパを静かに撃退したり……」
「あたしの友人の美咲ちゃんと月代先輩が、」
「良い雰囲気になってたから……」
「二人で文化祭を楽しんできてって背中を押したのよ」
「そのおかげで、夕方まで二人で、」
「喫茶店の片付けをすることになったけどね」
「後夜祭でようやく自由行動になったの」
「軽食を買って、温室で過ごすことにしたわ」
「軽食を食べてから、氷室先輩がね」
「こういったのよ」
「お嬢さんよければ、私と踊ってください」
「まるで王子様だったわ」
「あたしはどんくさいから……」
「氷室先輩の足を踏んでしまったわ」
「氷室先輩は笑顔で気にしてないと言ってくれたけど……」
「あたしはどんくさくて何もできない馬鹿な女なんですと言ってしまったのよ」
「ムードは台無しどことか……」
希は苦しそうに話し始める。
「氷室先輩は急に泣き始めたの……」
「あたしは何が原因なのかわからなくて……」
「オロオロするばかりだったわ」
「氷室先輩は一向に泣き止まないから……」
「何を思ったのか」
「あたしは冴ちゃん泣かないでと優しくいって……」
「頭を撫でて、氷室先輩の顔の涙をハンカチで拭いたの……」
「そしたら氷室先輩は、晴兄ってすがりついてきて……」
「一瞬誰なの!?って思ったけど……」
「そんなこと弱った先輩には言えなかった」
「あたしは人生最悪の過ちを犯したの……」
「すがりついてきた先輩を落ち着かせるためとはいえ……」
「冴ちゃん大丈夫だよってささやいたあと……」
「頬を撫でてキスしたのよ……」
「氷室先輩は一瞬で正気を取り戻して……」
「走り去っていったわ」
「それからは会っても気まずくて……」
「生徒会にお仕事を手伝いに行くのもやめたわ」
「心配した月代先輩に呼び出されてこう言われたわ」
「あなたたち二人は何があったの?」
「文化祭の後から変よ」
「力になりたいのよ」
「優しいからそう言ってくれたけど、」
「何も言えなかったわ……」
「そしたら氷室先輩に過去何があったのか……」
「全部話してくれたのよ」
「晴兄って人は氷室先輩の婚約者でね」
「先輩が高校1年生の時に事故で亡くなったの」
「それから氷室先輩は心を閉ざしたってね」
「それを聞いて話せるわけないじゃない」
「弱り果てた氷室先輩に無理矢理キスしましたとか……」
「あたしは世界一のクズよ……」
「それから氷室先輩とは会わなくなった」
「お互い避けてるのもあったけどね」
「もう二度と会えないわ……」
希は全てを話した。
「それで姉さんはどうしたいの?」
「氷室先輩と恋人になりたいの?」
「過去のトラウマから助けたいの?」
幸太郎は珍しく希を問い詰める。
「あたしは……」
「本当は会いたくて仕方ないの」
「氷室先輩と出会う前から救われてたの」
「あの公園の広告塔一緒に見たよね?」
「うん、覚えてるよ」
「まさか姉弟揃って、同じ女の人に惚れるなんてね……」
「本当に血は争えないよ」
幸太郎は赤面しながら言う。
「本当にそう思うわ」
「幸太郎が生きてたら、二人で氷室先輩を奪い合ってたかも」
希も笑いながら言う。
「それかお互い折り合いをつけるかな?」
幸太郎は真面目な顔をして言う。
「そうかもしれない……」
「続き話すわね」
希ははっきりと言う。
「うん、いつでもいいよ」
幸太郎はいつも通りの優しい顔に戻っている。
「引きこもってボロボロだったあたしに……」
「氷室先輩は希望の光をくれたのよ」
「先輩の看板の写真を撮って保存したわ……」
「辛くて諦めたい時は、」
「氷室先輩の写真を見て、いつも思ったの」
「もう逃げない」
「この人みたいになりたいってね」
「実際の本人に温室で、」
「会えて本当に嬉しかったわ」
「一緒に過ごすうちに、」
「幸太郎を失った悲しみが、」
「少しずつ癒え始めたの……」
「文化祭の時もうどうしようもなく、」
「好きだって気持ちが溢れたの……」
「冴香を幸せにしたい……」
「でもあたしにはふさわしくないってわかった」
「だったら冴香が他の人を好きで居続けていても構わない」
「たとえあたしの気持ちが届かなくても……」
「愛する人が心からの笑顔になれるなら、あたしも幸せだから……」
「過去の傷も晴兄も全部含めて冴香を形作ってるから……」
「冴香の全てを愛してるんだってわかったの」
「冴香の側にずっといたいよ……」
「もう離れたくない」
「失いたくない」
「冴香がメーテリアス学園の、」
「学園長になる姿を隣でみたい」
「あたし本当に嫌な人間でしょ」
「もうどうせ暗闇から生きて帰れるか分からないし……」
「全部ぶちまけるわ」
「冴香と一緒に暮らして支えてあげたい」
「冴香が悲しいときは側に居て慰めたいの!」
「世界は残酷だけど、まだ終わりじゃないよ」
「あたしが側に居るわと言ってあげたい」
「冴香が笑顔な時は一緒に笑いたい」
「将来できれば結婚したいの!」
「あたしはウェディングドレスを着て、」
「冴香にはタキシードを着てもらいたいわ」
「冴香がドレス着たいと言ったら……」
「青いドレスを着てほしいわ」
「冴香の雰囲気に合うから」
「あと新婚旅行は沖縄がいい!」
「冴香の水着姿を見たら、」
「絶対に鼻血を出すわ」
「冴香とマイホームを建てて、」
「一緒に幸せに暮らしたいわ」
「あたしは家事を頑張って冴香を支える!
「あと冴香とおばあちゃんになるまで一緒に暮らしたい……」
「いい人生だったねって笑い合いながらいいたいわ……」
希は号泣していた。
「姉さんの本音は相変わらず欲望にまみれてて……」
「逆に安心したよ」
「それだけ氷室先輩のことを愛してるんだね」
優しく希を抱きしめる。
「さあ、姉さん」
「大好きな氷室先輩のところに戻る時間だよ」
幸太郎は優しく言う。
「せっかく幸太郎と再会できたのに!」
「まだ話したいことがたくさんあるのよ!」
「あたしのせいで、あなたが死んだことずっと後悔してたの……」
「あの日、あたしが電車に乗れてれば……」
「送り迎えを頼まなければ……」
「メーテリアス学園を受けなければ……」
「まだ幸太郎は生きてたのに!」
暗闇の中で、希の大声が反響する。
「それは姉さんのせいじゃないよ」
「運命は誰にもわからないんだ」
「過去はもう変えられないし」
「起きてしまったことを悔やんでも仕方ない」
「だから姉さんは未来に目を向けるんだよ」
「未来なら掴み取れるし、変えられるさ」
「だって姉さんはメーテリアスに合格できたんだし!」
「氷室先輩のためなら、なんだってできるよ」
「また辛いこともたくさんあるかもしれない」
「世界はどこまでも冷たいし酷いことが多いよ」
「それでも愛する人が隣にいれば、乗り越えられるさ」
「姉さんにはそれができる」
「僕にはわかるよ」
「だって最愛の姉さんなんだからさ」
「ずっと僕のことを守ってくれてありがとう」
「今度は僕が姐さんを守る番だね」
「これからもずっと側で、見守ってるからね」
「だから安心して残りの人生を楽しんできて!」
「父さんと母さんにもよろしくね!」
「氷室先輩と幸せになるんだよ!」
「約束できる?」
「どう考えても二人は両想いだよ」
幸太郎は徐々に光となって消え始める。
「幸太郎!」
「あたし幸せになるから」
「あんたの分まで絶対に生き続ける!」
「もう諦めないし」
「あしたなんてとか言わない!」
「冴香を幸せにしてみせる!」
「幸太郎が大好きでいてくれた強い自分になるわ」
「ボロボロで泥まみれでどんくさいあたしだけど」
「そんな自分が大好きだから!」
「だからありがとう!」
「幸太郎!」
希がそう言うと暗闇が徐々に明るくなっていった。
そして目を覚ます希であった。
「冴香待ってて……」
「今行くわよ!」
今の希の外見はボロボロだ。
頭から血を流し、膝は擦りむいている。
挙句の果てには、全身泥まみれだ。
そして大雨も降っている。
どしゃ降りのなか、立ち上がり愛する者のために、
温室へ向かう希であった。
希はもう一人ではない。
心のなかで最愛の幸太郎が見守ってくれている。
温室での告白
氷室冴香は一人温室のベンチに座っていた。
先にたどり着いたとはいえ、今は大雨が降っている。
また晴兄のように、希が死んでしまうのではないか……
雨が大嫌いな冴香は落ち込み続けていた。
「はぁ……」
「希、ごめんなさい」
「私は臆病で卑怯な人間よ……」
「弱り果てたあげく、」
「あなたに晴兄の姿を重ねて、」
「すがってしまうなんて……」
「あなたは勇気を出して、」
「キスしてくれたのに……」
「私はどうしたらいいのか……」
「わからなくて……」
その時ガチャーンと大きな音をたてて、希がドアを開け入ってくる。
「冴香!」
そこに立っていたのは、血と泥にまみれ、雨で濡れている希であった。
最後に
お読みくださり、ありがとうございます。
今回は学園百合小説になります。
長編の予定です。
中盤からもう一人のヒロイン結香が登場しますよ!
ぜひお楽しみください。
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